Anthropicは最近、新しい「Claude Cowork」というツールを、機会を見つけてから2週間足らずでリリースしました。
彼らがそれを作ったのは、半年前に決めたロードマップに書いてあったからではありません。誰か偉い人に「やれ」と言われたからでもありません。データを見て、ユーザー(このケースでは自社の社員)がターミナル上のエージェントを工夫して使い、個人の領収書整理のような用途にまで広げていることに気づいた。そして「もしかして、汎用的に使えるプロダクトをすでに作ってしまっているのでは?」と理解したからです。
観察して、作って、出した。しかも2週間以内。従来のソフトウェア開発なら数ヶ月かかりがちなところを、必要性が見えた瞬間から10〜14日で形にしています。
生成AI時代における、アジャイル開発と経験主義(Empiricism)の実践例として、とても示唆が多い話です。
エンジニアとプロダクトマネージャの比率
長年、テック業界では「エンジニア:PO/PM」の比率は、だいたい4:1〜10:1あたりが一般的と言われてきました。もちろんこれは状況によって変わりますが、ざっくり言うとこういう前提です。
「実装は時間もコストもかかる。だから、何を作るか決める人より、手を動かす人の方が多く必要になる」
ところがAIツールによって開発の時間とコストが大きく下がると、ボトルネックは上流に移動します。10日で新しいプロダクトが作れるなら、制約は「どう作るか」ではなく「何を作るべきか」になります。
Andrew Ngによれば、アメリカのテック業界では、チームの比率が1:1に近づく例も増えているそうです。
これは単なる人員配置の話ではありません。前提が変わってきています。
それは自分たちに何を意味するか?
開発者として
もし開発者なら、「言われた仕様を実装する人」でいるだけの働き方は、これから先は成立しにくくなります。コードが安くなるほど、価値は「文脈」に移ります。ユーザー、ビジネス、マーケットを理解することが、IDEを使いこなすのと同じくらい重要になります。
極端な言い方をすると、ビジネスに向き合うことを拒む開発者は、価値を出しにくくなります。そういう時代に入っています。
リーダーとして
もしリーダーなら、組織図、ガバナンス、社員のスキルを見直してみてください。
組織は職能別の縦割りになっているか、それともプロダクト中心になっているか。
新しい予算を通すのにどれくらい時間がかかるか。
新しい機能をユーザーに届けるまでにどれくらいかかるか。
A/Bテストを回してデータを集めるまでのリードタイムはどうか。
社員は狭い専門性だけを伸ばすキャリアパスに固定されていないか。
新しい技術やツールを学び、使い、仕事に取り込むことが奨励されているか。
等
AnthropicのClaude Coworkのリリースは、偶然うまくいった話ではありません。彼らの以前からプロダクトマネジメントの考え方や、こうしたことが繰り返し起きるような組織の作り方について発信してきました。
彼らは、スクラムの基本である「透明性・検査・適応」を高速で回している例の1つです。
ただし重要なのは、AIによってボトルネックが「どう作るか」から「何を作るべきか」へ移りつつあることです。結果として、その判断が得意な組織とそうでない組織の差は、今後さらに広がっていきます。だからこそ、上記の問いは、これまで以上に重要になります。
そして多くの組織が同じスピードで動けないとしたら、それはAIツールが足りないからではありません。スピードをもって複雑さや変化に対応するための能力、文化、構造、そしてリーダーシップが不足しているからです。
もしAIが今後のプロダクト開発の進め方や組織構造にもたらす影響について、チーム内や組織全体で議論し始めたいなら、「AI Sense-Making Workshop」も参考になるはずです。